前編に続き、ブランク作りの後編。
今回は、匙形の毛描きからブランクの完成まで。
匙形の毛描き
匙面の角度も決まり、ある程度立体感が出てきた板状のものに、まずは中心線を描く。
そして、その中心線を軸に匙の形を描いていく。
ボウルの形も様々あり、
オーソドックスな卵型・ティアドロップ型・スクエア型などがあるが、自分がイメージする好きな形を描けば良い。
今回はやや大きめなティアドロップ型で描いてみた。
仕上がりイメージとしては、小さめな取り分け匙となる予定。
ここで、前述したボウル面の毛描き方・バランスの取り方について。
V字加工した谷の部分をボウル部のどこに位置させるかで、仕上がった際の匙の表情や使い勝手などに影響する。
また、ネック部分(グリップとボウルの接続部分)に近づけすぎたバランスの場合、この後のナイフワークの際に難易度が上がる。
基本的なバランスの取り方としては、ボウルを三等分し、ネック側から1/3の位置にV字の谷が来るように
初めのうちはバランスを取れば間違いない。
今回の写真のものは、ボウル四等分・ネックから1/4でバランスを取ったものになる。
毛描きなが全体の確認をしていくと、グリップ側面に小さな節目を確認。
全体的なはつりの中で削り落とせる見込みの節であれば良いが、逃げられそうにない場合、
グリップ部分の毛描きの長さを調整して、切り落とすこととなる。
今回は、この後の工程で削り落とせそうな見込みだった為、節目は無視して描くこととした。
側面のはつり
毛描き終えたら、次は側面の余分な部分を斧ではつり落としていく。
ボウル部の左右・グリップ部の左右を可能な限りで削り落とす。
徐々に匙の形に近づいていく楽しい瞬間だ。
心配されたグリップ側面の節目も、予測通りこの段階で削り落とすことができ、一安心。
ネック部のはつり
続いて、ネックとボウルの接続部分から1〜1.5㎝程グリップ側の左右に鋸で切り目を入れる。
描いた下書きのギリギリまでは入れず、手前3㎜程度までで止める。
この後、斧でこの切れ目をめがけてはつる訳だが、この切れ目はその時に斧がボウル部に接触しない為の保険的役目も兼ねている。
勢い余って当ててしまった場合、その後のクラックの発生要因となり、最悪の場合、ボウル側面を割り落としてしまい、この時点で失敗で終わることとなる。
斧のコントロールに不安な場合は、この切れ目を2本入れることも良策だ。
ボウル側を下にして、グリップ両側を削り落とす。
乾いた材であれば、切り込みを入れた部分まで割れるに近い形で比較的簡単に削り落とすことが可能だが、
生木の場合は、材に粘りもあり、特に白太の部分は粘りが強い印象がある。
一気に削り落とそうとせず、斧をコントロールしながら徐々に下に向かって削っていく。
少しくらい身が残ってしまったとしても、生木の場合、最後に軽くナイフで削ることで簡単にかつ綺麗に仕上げられるので、あまり神経質にならなくていい。
両側が削り落とせたら、ここで一度、グリップ背面の余分な厚みも削ぎ落としてしまおう。
エラの処理
続いて、ボウルとグリップの付け根付近の処理をしていく。
グリップ側を下にして、斧で写真のようにエラの両側を削り落とす。
この後、ボウルの形状に沿って削るにあたり、厚みを減らす意味合いでの下処理となる削りだ。
続いて、下の写真の通り、描いたボウルの下書きに沿って削り落とす。
ボウル全体の処理
引き続き、ボウル全体の削りについて。
描いた下書きに沿って斧で削り落としていく。
ボウルの輪郭の削りが完了したら、背面の厚みもここで削り、調整しておく。
レードルや深めの取り分け匙などは、多めに、通常の食事匙などは薄めに厚みを調整しておく。
ここでの厚みを多く残してしまうと、後々のナイフワークでの削る労力が増えてしまうので注意する。
匙の形に近づいてくるにつれて乾燥も進んでくる為、ブランクの状態で各所の厚みをある程度落としておかないと、この後のナイフワークで時間と労力共にかかり苦労するので、全体のバランスを見ながら、厚みの調整を
しっかりとしておきたい。
効率性と正確性の為、私はこの工程ではストックナイフを用いる。
斧で普通にはつれば事足りるので、必ずしも必要ではないが参考までに。
Tool manufacturer:
仕上げ
最後に、グリップ上部の余分な部分を鋸でカットし、刃物で簡単に全体の輪郭を整える。
匙の全体像が見え、テンションの上がると共に、安堵する瞬間でもある。
細くしすぎたり、薄くしすぎたりすると、この後乾燥が進むにあたり、痩せすぎてしまう為、イメージとかけ離れたものになってしまうので、生木のブランクは、あくまでザックリしている位が良い。
ナイフワークの際には、胸に当てて削ることも多く、ビブと呼ばれる胸当てをしよう。
厚めのレザーで製作されており、心窩部を保護してくれる。
私のウェブショップでは現在売り切れの状況だが、また今年中にはストック予定。
生木の水分量にもよるが、私はここから1〜2日程、直射日光の当たらない場所で乾燥させてから、この後の工程に入る。
乾燥の進捗と足並みを揃えてナイフワークを進め、仕上げていくイメージ。
ナイフワーク編はまた近々公開する。